IIBMP2025 セッション
生命情報科学若手の会企画
バイオインフォマティクス研究コラボレーションギルド
IIBMP2025 セッション
生命情報科学若手の会企画
バイオインフォマティクス研究コラボレーションギルド
IIBMP2025 (2025年日本バイオインフォマティクス学会年会)にて、若手の会ではセッション「バイオインフォマティクス研究コラボレーションギルド」を企画しています。本セッションは、7名の多様なバックグラウンド(Wet・Dry研究者・医師等)を持つ研究者をお招きし、持ち寄る研究上の課題に対し、バイオインフォマティクスに多様な専門性を有する参加者が、それぞれの立場から多角的に議論・提案を行う「ギルド」としての場を創出します。
実施日時:2025年9月4日(木)10時10分〜11時40分
近年、バイオインフォマティクス技術は、ゲノム解析、画像認識、構造予測など多岐にわたり急速に進展しており、これを組み合わせることにより、医学、農業、環境など多様な分野への応用が進んでいます。しかし、技術者同士や技術提供者と利用者が対話する機会は限られており、多様なバイオインフォマティクス技術のポテンシャルが十分に活かしきれていません。 そこで本セッションでは、Wet・Dry研究者・医師等が持ち寄る研究上の課題に対し、バイオインフォマティクスに多様な専門性を有する参加者が、それぞれの立場から多角的に議論・提案を行う「ギルド」としての場を創出することを目的としています。
発表者側は、自身の課題を解決する糸口を発見することができ、参加者側は自身の専門性を他分野にどう活かすかや、専門外の技術者との議論を通じ新たな視点を発見することを期待しています。
発表者(敬称略)
中嶋 智佳子(Wet系、名古屋大学理学研究科)
井澤 満(学部生研究者、弘前大学医学部医学科)
川崎 純菜(Dry系、千葉大学医学研究院)
片山 侑駿(企業研究者、NECソリューションイノベータ株式会社)
横井 亮磨(医師、岐阜大学医学部附属病院 消化器外科)
永田 隆平(Wet系、名古屋大学大学院生命農学研究科)
木本 愛佑琶(高校生研究者、三田国際科学学園高等学校)
講評(敬称略)
白井 剛(大会長、教授、長浜バイオ大学バイオサイエンス学部バイオデータサイエンス学科)
福永 津嵩(准教授、慶應義塾大学理工学部)
座長
大平 正貴(修士2年、東京大学大学院新領域創成科学研究科)
新井 悠也(一貫性博士課程3年、筑波大学ヒューマニクス学位プログラム)
栗原 恭子(修士2年、東京大学大学院新領域創成科学研究科)
酒井 俊輔(博士3年、東京大学大学院新領域創成科学研究科)
野村 亮輔(博士1年、東京大学大学院新領域創成科学研究科)
嶺井 隆平(助教、長浜バイオ大学バイオサイエンス学部バイオデータサイエンス学科)
霊長類脳のエイジング
中嶋智佳子(名古屋大学理学研究科)
ヒトを含む霊長類において、生後も神経細胞は脳室下帯で産生され、前頭葉に移動することが示されており、神経新生は生後脳の発達に重要であると考えられる。一方、加齢に伴う神経新生の低下機構は未だ解明されていない。本研究は、新世界ザルであるコモンマーモセットの脳から得た細胞のsingle cell RNA-seqデータを活用し、神経新生の変化と起因メカニズムを明らかにする。分子学的、組織学的アプローチによって生後霊長類の脳機能を時空間的制御する因子を同定することを目指す。
求めるコラボ人材:霊長類と齧歯類サンプルのscRNAseqデータを用いて、種間解析が可能な方。scRNAseqからの長鎖ノンコーディングRNAの抽出解析が可能な方。
胆管癌における神経周囲浸潤の機序解明 Elucidation of Mechanisms Underlying Perineural Invasion in Cholangiocarcinoma
井澤満(弘前大学医学部医学科)
我々は胆管癌における神経周囲浸潤の機序解明を目指している。これは癌細胞が神経束に沿って浸潤する現象であり、予後不良因子として知られている。興味深いことに、神経への浸潤の程度によって患者の予後に差があり、この理由を明らかにするべく病理組織を対象にシングルセル空間トランスクリプトーム解析を行った。解析を通じて浸潤過程における癌細胞の性質変化や腫瘍微小環境での細胞間クロストークを明らかにしたいが、本現象は多種多様な細胞や細胞外マトリックスが関与し非常に複雑である。そこで特に細胞間コミュニケーション解析(CellChat等)やTrajectory解析に精通した専門家からのアドバイスを求めている。
We aim to elucidate the mechanisms underlying perineural invasion (PNI) in cholangiocarcinoma, a process in which cancer cells invade along nerve bundles and is known as a poor prognostic factor. Interestingly, the extent of perineural invasion correlates with differences in patient outcomes. To investigate the underlying reasons for this correlation, we performed single-cell spatial transcriptomics analysis on pathological tissue specimens. Our analysis aims to clarify the phenotypic changes of cancer cells during the invasion process and the cellular interactions within the tumor microenvironment. However, due to the complexity involving diverse cell populations and extracellular matrix components, expert input is required. We seek collaboration and advice from specialists experienced in cell-cell communication analysis (e.g., CellChat) and trajectory analyses.
求めるコラボ人材:RNA-seqなど網羅的遺伝子解析に詳しい研究者、特に細胞間コミュニケーション解析(CellChat等)やTrajectory解析に関する経験を持つ方。 Researchers experienced in comprehensive gene expression analyses such as RNA-seq, particularly those skilled in cell-cell communication (e.g., CellChat) and trajectory analysis.
オープンデータ利活用によって動物由来ウイルスの多様性を探る
川崎純菜(千葉大学医学研究院)
次のパンデミックに備えるために、動物に潜む未知ウイルスの探索とリスク評価に取り組んでいます。当日は以下の取り組みについて議論させていただければと思います。
・公共RNA-seqデータからの網羅的ウイルス探索
・宿主発現シグネチャに基づくウイルス病原性の予測
・ヒト感染リスクを評価する機械学習モデルの開発
・ゲノム疫学データ解析による動物でのウイルス流行動態の把握
求めるコラボ人材:広くディスカッションさせていただければ幸いですが、強いていうなら環境ゲノムを希望します。
量子アニーリングを用いたアプタマー設計法の開発
片山侑駿(NECソリューションイノベータ株式会社) ほか
要旨非掲載
求めるコラボ人材:構造生物学、AI、in silico創薬などの知見のある方
切除不能RAS変異型大腸癌の一次治療における効果予測因子の探索
横井亮磨(岐阜大学医学部附属病院 消化器外科)
切除不能RAS変異型大腸癌の治療成績向上には、薬物療法の最適化が重要である。MONSTAR-SCREEN-2に登録されたRAS変異型大腸癌172例を奏効群と非奏効群に分類し、一次治療前のRNA-seqデータを用いてDEG解析を行ったところ、132の有意な発現変動遺伝子が同定された。またRASシグナル伝達経路の濃縮や腫瘍微小環境・免疫関連遺伝子の発現変動も確認された。さらに機械学習を用いて治療効果の予測モデルを構築すると、Recall 76.9%、Precision 76.9%であり、TCGAによる外部検証でも良好な予測性能を示した。今後は遺伝子変異情報やmultiplex IHC等の病理画像を解析し、biomarker探索を進めたいと考えている。
求めるコラボ人材:病理画像解析のスキルをもつ専門家
予測立体構造を使って基質結合ポケットの形が違う酵素を探す
永田隆平(名古屋大学大学院生命農学研究科)
酵素の探索はこれまでアミノ酸配列の類似性を指標にした方法が主流でしたが、AlphaFoldの登場により立体構造の類似性を使用にした方法が可能になりました。酵素の構造生物学的研究を行ってきた私は、この立体構造を使った探索により特定の酵素ファミリーの中から典型例とは基質結合ポケットの形が違う、すなわち基質特異性が異なる、酵素を見つけられると考えました。現在までに、ある酵素ファミリーに属する約3,000個の酵素の予測構造を自分の目で観察することで、ポケットの形が違う酵素を見つけています。今後、他の酵素ファミリーに対して同様の探索をバイオインフォマティクスの手法を使ってより効率的に行いたいと考えています。
求めるコラボ人材:タンパク質立体構造のインフォマティクスの技術や経験のある方
疾患性ミスセンス変異とタンパク質機能の関係の解析
木本愛佑琶(三田国際科学学園高等学校)
現在、ミスセンス変異が人体に及ぼす影響、特に疾患発症について解析している。同じアミノ酸変異のパターン(アミノ酸Aがアミノ酸Bへの変異)でも、疾患発症との関連性は同じとは限らないことが知られている。本研究では、アミノ酸変異のパターンがデータベース上でどの程度の割合で疾患原因となるかを網羅的に解析した。その結果、タンパク質の細胞内局在やタンパク質の機能が、アミノ酸変異が疾患をもたらす割合に影響していることを見いだした。具体的にはミトコンドリアタンパク質やカルシウムイオン結合タンパク質においてミスセンス変異と疾患との関わりが強いことが分かってきている。今後はこの原因を追及していきたいと考えている。
求めるコラボ人材:配列・構造解析の研究者